シリーズに渡り、カイロプラクティックの頚椎矯正手技に対する論文を肯定的・否定的含めご紹介してきました。前回、予告しておいた通り、今回は頚椎矯正と椎骨動脈解離・脳卒中との具体的な割合と、医療事故の発生割合との比較などの検証をしていきます。

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1、カイロプラクティックの安全性/危険性シリーズを振り返って

はっきり言って、この様なシリーズ記事を続けていくのは手間ばかりかかって、経営的には実りが少ない。それにも拘らず誰も読んでいない(それを逆手にとって、好き勝手語っているわけですが…)。実際、カイロプラクティック業界では、この様な内容の批判が出ても特に反応もせず「ただの噂話だから」と大人の対応で、沈黙を突き通す、もしくは適当にお茶を濁していることが多くあります。一方で「カイロプラクティックって、こんなにすばらしいんですよ~」というアピールはせっせとガンバッテいます。

しかし一般の方は、カイロプラクティックに対する正しい知識というのは、あまり持ち合わせていません。そこにカイロプラクティックに対する批判的意見を聞かされると、それがカイロプラクティックに対する知識の全てになってしまいます。しかもマイナス・イメージの情報は印象に残りやすい。それでは情報が偏ってしまいます。

クライアント様に提供する技術には、自信を持って提供していきたいと考えています。そのために正しい知識を提供し、クライアント様の不安を払拭するのも、施術をする者の務めではないかと思い、この様なシリーズ物のブログを掲載しています。

そのような観点から今回は、頚椎の矯正による椎骨動脈解離の発生割合が実際にどのくらいになるのかを探っていきます。

 

2、論文紹介

前回までは様々な報告・論文を紹介して、カイロプラクティックの頚椎矯正と椎骨動脈解離との関連性の有無や、そのリスクを検討してきました。今回では、そのリスクの割合の具体的な数値を探っていきたいと思います。

 

【頚椎矯正治療は椎骨動脈解離の独立したリスク要因である】

Spinal manipulative therapy is an independent risk factor for vertebral artery dissection

著者;Smith WS, Johnston SC, Skalabrin EJ, Weaver M, Azari P, Albers GW, Gress DR.

Neurology. 2003 May 13;60(9):1424-8.

【概要】

《目的》
脊柱矯正治療(SMT)は椎骨動脈解離の独立したリスク要因かどうかを決定すること

《方法》
症例対照デザインを入り子として使用し、2つの大学付属の脳卒中センターにおける1995年から2000年までの期間で、頚動脈解離 (n = 151)や、虚血性脳卒中、一過性脳虚血(TIA)の60歳以下の全ての患者を検討した。対照群(N = 306)は、性別によって、および年齢階層内のケースと一致するように選択した。症例群と対照群をメールで募集し、回答者は構造化された質問票を用いて、インタビューを受けた。インタビューした患者の医療記録は、患者が脳卒中またはTIAを持っていたことを確認し、動脈解離の証拠があったかどうかを判断するために、盲検化された2名の神経学者によって検討された。

《結果》
インタビューと盲検化したカルテの調査の後、動脈解離を持つ51人の患者(平均年齢41 +/- 10歳、女性割合59%)と100人の対照患者(平均年齢44 +/- 9歳、女性割合58%)を検討した。単変量解析では、動脈解離の患者は、30日以内にSMTを持っていたことが多かった (14% vs 3%, p = 0.032)。その内訳は、脳卒中もしくはTIAに先行する首や頭の痛みがあったため(76% vs 40%, p < 0.001)、P <0.001 )、またアルコール常用者 (76% vs 57%, p = 0.021)である。多変量解析では(CI 11から1.3 OR 3.76、95%)、椎骨動脈の解離は、30日以内のSMTと独立した関係性(OR 6.62, 95% CI 1.4 to 30) があり、また脳卒中や一過性脳虚血の前に起る痛みと関係があった (OR 3.76, 95% CI 1.3 to 11)。

《結論》
このSMTと頚動脈解離の影響を調べた症例対照研究では、首の痛みの調整をした後でSMTが頚動脈解離の独立した関連があることを示した。SMTを受ようとする患者は、矯正手順による脳卒中または血管損傷の危険性があるということをわかった上で、同意する必要がある。脊柱矯正治療後の首の痛み重要な増加は、早急に医師の検査をする事になる。

 

サンフランシスコのカルフォルニア大学、神経内科医局の研究です。この論文では、カイロプラクティックの首の矯正と椎骨動脈解離との関連はある、と結論付けています。

ただこの論文は、今までご紹介してきてた学術論文より少し年代が古く、2003年に発表されたものです。時系列的に考えると、新しい論文の方が、以前発表された論文の内容を踏まえて、さらに検証されたり、より総括的に吟味されたりしているので、正確性が増していると考えらるという点にご留意ください。

この論文では、動脈解離の患者51人と、比較対象とされた患者100人での解析に基づいた内容になっています。ここでの論点としては、矯正を受けた患者が、施術を受ける前から動脈解離があったのか、なかったのかという点が重要で、その篩い分けがキチンとできてないと数字の正確性が疑われてしまいます。その点の論争は、同じような研究が出されるたびに繰り返されます。

この論文より、はるかに多くの頚椎矯正回数のデータを把握し、それを基に具体的な障害発生率を割り出している研究報告があるので、次はそれをご紹介します。

 

【頚椎矯正操作に伴う動脈解離;カイロプラクティックの経験】

Arterial dissections following cervical manipulation: the chiropractic experience

著者;Scott Haldeman, Paul Carey, Murray Townsend, and Costa Papadopoulos

CMAJ. 2001 Oct 2; 165(7): 905–906.

【内容】

脊椎矯正手技の有効性に関する研究は、カナダやアメリカ、イギリス、デンマークなどにおいて、カイロプラクティックの独立機関によって、普及され、そして法制化された成果である。これらの国では、カイロプラクティックは今や人々に求められるヘルスケアの主流となっており、カイロプラクティックの公認化の増加は、脊柱矯正手技の潜在的な合併症や、特に頚椎矯正手技に伴う動脈解離の発生への大きな関心を抱かせた。

最近の研究では、特に脳卒中での局所的な関心があり、頚椎矯正手技に伴う発達した椎骨動脈解離を患った患者を治療しているような神経科医にとっては、珍しくないということを示唆している。この研究では我々は、カイロプラクティックの考え方による矯正手技が引き起こす、血管障害の割合の概算を得る事を試みた。

カナダ、オンタリオ州の都市トロントにあるカナダ記念カイロプラクティック大学の施設内倫理委員会による承認の後、カナダのカイロプラクティック保護協会(CCPA)からの医療過誤データのレビューは、1988年から1997年の10年間におけるカイロプラクティックの治療の後に起った血管障害の全てのクレームの評価を実施された。全ての症例報告は、関連する脳血管障害のタイプ分けや、合併症を併発した患者の特徴の決定をし、整理され、検討された。記録上から得られた神経科医の治療担当者の診断は、解離の性質を決定するのに使われた。これはCCPAで網羅されているカイロプラクターが毎年行わ頚椎操作の数と比較された。この分母は、カナダのカイロプラクティック訓練生のうちの10%による、1週間中の練習についてまとめたアンケート調査から得られた。効果的な回答率は77.8パーセントだった。これらのデータは、調査グループのカイロプラクターの数によって管理されていた頚椎矯正手技もしくは、以前の調査から得られている一年毎の49.1週の練習の概要数の使用か、どちらかの訪問数を使用し、その中央値を乗算することによって推定された。概算の結果は、この期間中にCCPAによって把握されていたカイロプラクターによる頚椎矯正手技の数は、ほぼ134.500.000回だったということが明らかにされた。

10年間に頚椎矯正手技後の神経症状が43例あった。これらのうち20は軽微であり、神経科医によって脳卒中と診断されていなかった。23件の頚椎矯正手技後の脳卒中もしくは椎骨動脈解離が報告された。これらの23人の患者においては、高血圧、糖尿病、経口避妊薬、片頭痛と喫煙の使用頻度が図に示されている。

カナダでは4500人を超えるライセンスを所有しているカイロプラクターがいる。カイロプラクターは次の事柄を気づいているであろう。それは、頚椎矯正手技後の動脈解離の発生が806万回の受診に対し約1件、585万回の頚椎矯正に対して約1件、カイロプラクティックの練習期間1430年に1件、現役カイロプラクター48人対し1件という発生頻度があるという事実があることを。これは神経学者の調査から予測された、50万回~100万回の頚椎矯正回数に対して1件起る、という見積もりより著しく少ない。このデータもまた、ちゃんと見極められていなかったため、合併症のリスクがある患者のことが記載された、最近の文献の検討の結びを確かめることになる。

カイロプラクティックの経験は、頚椎矯正手技後に発生したすべての動脈解離を反映していない可能性が高いであろう。残念ながら神経学者が以前に行った調査では、管理された矯正手技のタイプの決定のためのチャートを忍耐強く検討していなかった。動脈解離と関係があるとされたカイロプラクティックの施術所で行われた矯正手技かどうかということさえ蔑ろにされていた。頚椎矯正手技後の解離の本当の発生率をだす唯一の方法は、カイロプラクターと神経学者の両者が参加して調査することで患者の篩い分けを判断し、決定することである。そのような調査で両者の協力が失敗することは、患者に混乱と矛盾の情報を与える結果となるであろうし、この様な混乱の抑える可能性を減ずるであろう。

 

CMAJはカナダ内科学会発行の専門誌です。そこに掲載された記事で、これもpubmedより検索されたものです。この論文は先ほどの論文よりさらに少し古い2001年の情報ですが、サンプル数の多さと、数値や割合がわかり易いため、カイロプラクティックの安全性を語る時によく引き合いに出される、カイロプクティック業界では有名な論文です。

ここでは題名の「experience」は直訳して「経験」としてありますが、日本語のニュアンスとしては、「施術を受けた事」という意味合いです。

この論文で重要なのは、首の矯正回数の総数に対する椎骨動脈解離が発生率がどのくらいあるのか、ということが明示されているということで、その発生率は585万回の首の矯正に対して1件と推定されています。それ以前に神経学者サイドから出された推定値では50~100万回に1件という割合だと紹介されています。

以前にご紹介した新聞記事「2008年8月25日付けNew York Times、著者;首の矯正手技を受けた45歳未満の人の内、脳卒中が起こる確率は10万人に1.3人と推定されています。

ここで一般的なカイロプラクティックの施術院の施術状況と照らし合わせてると、1人のカイロプラクターが1日20人の人に首の矯正を行い、1ヶ月に26日勤務とすると、1ヶ月に520回首の矯正をする事になります。一年では12ヶ月分なので6240回です。それを30年間毎日ポキポキ続けたとしても総数は187200回となります。

私は,雇われでカイロプラクティック施術をしていた時、最大で一日50人首の矯正をした事がありますが、個人で経営している施術院では現実的にそれは無理です。しかも現在の施術所では1日最大7~8人しか診ないなので、これらの数値に達成する事は不可能です。しかも全員に首の矯正をする訳ではないのでなお更です。

つまり、カイロプラクティックの首の矯正で椎骨脳底動脈解離を引き起こす危険性は、「極めて低い」と言わざる得ないです。

 

4、考察

リスクというものは全ての事柄にあります。車を運転すれば交通事故を起こすリスク、学校や会社などの人ごみに入れば風邪をうつされるリスク、運動すれば怪我をするリスク、外食すれば食中毒に当たるリスク。しかし、車を運転すれば、かならず交通事故を引き起こす訳ではありません。生ものを食べれば必ず食中毒に当たる訳ではありません。その行為全体数からして、事故や症状の発生数を見れば、発生割合は小さなものとわかるでしょう。それはリスクを想定して、当事者が防ごうと努力しているからです。

その事をキチンと認識せずに、ただ闇雲にイメージや風評にとらわれていると何もできなくなってしまいます。

首の矯正も同じことで、施術者はリスクを想定し、それに適切に対応し、施術をしていく努力をしていけば、問題を引き起こす可能性は極限まで減らせます。実際の障害の発生数や割合を見れば、いかにイメージされていた数字より少ないかが判ります。

今までず~っと、シリーズで述べていたことは、カイロプラクティックの「ポキッ」という矯正の話です。これは、カイロプラクティックの首の矯正の中のたくさんある方法のほんの一部にしか過ぎません。その他にも、ドロップやアクチベーター、インストルメンタル、インテグレーターなどの道具を使った物や、振動や牽引を使ったモビリゼーション系、マッスル・エナジーやPIR、モールディングなどの軟部組織にアプローチしたものなど、やり方はいろいろあります。

SMT(ポキッという矯正)にはSMTなりの目的と効果がありますが、それでも「苦手」とか「そもそも自分には合わない」とか思われるのであれば、代替のやり方にしてもらえば良いのです。

ただここで忘れないでほしい事は、噂話や風評に振り回されて、カイロプラクティックの良い部分を見逃さないでいただきたいという事です。

 

5、まとめ

今回は、当初、カイロプラクティックの事故の発生率と医療事故の発生率の比較をしようかと思っていましたが、取り留めなく文を作っていたら、全部で1万文字を超えてしまって、長くなったので2回分に分割しました。次回は医療事故の発生率について検証していきます。これも先ほどと同じで、何にしてもリスクはあり、簡単な医療行為(採血や薬の服用など)にもリスクはあります。しかしそのリスクを甘受することで、皆さんは医療の恩恵を受けているのです。そのような内容を述べていきたいと考えています。